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声業界伝説のマネージャー極細木(ごくぼそき)スガ子。酸いも甘いも噛みわけたその経験で、誰も言えなかったことを、今宵も〈きっぱり〉と斬っていく。「事務所の深い落とし穴編」「堕ちたマネージャーたち編」などプロ必見の連載。
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この物語はトッププロたちの華やかなデビューストーリーではありません。
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マネージャー小窓王の「改編の狼」
#5 逃げ去る恋
2006年11月16日 ナレーターメルマガ31号より転載

『目先のギャラで右往左往するのではなく、3年5年先を見てマネージメントをしなさい』
あんなに愛し合った夏の日。でも秋を前に彼女は去っていった・・・
何度かけても電話に出てくれない・・・傷心の秋・・・
<9月初旬>
9月初旬のある日『zero』最終オーディションの緊迫した現場。
水を打った静けさの室内に着信音が鳴り響く。
携帯を掴んで急いでスタジオの外で電話に出る。キュッと胸が締め付けられる。
「もしもし・・・」
『もしもし、小窓王さん・・・実はお願いしていた、番組が急きょ終了する事になりまして・・・』
電話は某制作会社のプロデューサーからだった。
去年始まる時は「長いレギュラーになりますよ」って言ったはずなのに(泣)
そう、それも恋と同じかもしれない。
夏の終わりから秋にかけては、番組の改編期。それは、古い番組が終わり、新しい番組が決まるまでの真空の時期。プレーヤーにとっても、マネージャーにとっても、ほんとうに胸が締め付けられる季節なのだ。
<9月中旬>
知人から女の子を紹介され、食事をすることになった。これもタイミングなのか・・・
寂しくなっていた心に、風が吹く。暖かいのか冷たいのか・・・
某放送局から新番組の依頼が舞い込んできた。新番組の話に小躍りする。
が、ナレーション量が多いのに、ギャラが叩かれる。
あれから、また数本レギュラー番組が終わっている・・・なのに、新番組まだ何も決まっていない。
電話を切ってしばらく1人で考えこむ。。。。雑念が頭をよぎって行く。
スケジュールが空いてるよりは、安くてもいいから入っていた方が・・・だってこの番組は安いかもしれないけど、やっぱり声を掛けてくれる出会いを大切にしたいし。それにここで出会ったスタッフが、今度は別の番組で呼んでくれるかもしれないし。そう先行投資と考えればやらないより、やった方が良いに決まってるし。それにことわざにも一期一会と言う言葉有るぐらいなんだから。
そう独り言を呟きながら、自分を納得させて出した結論だった。
大窓王に新番組の経緯を手短に伝える。
『う~ん。いつまでたっても、昔の癖がぬけないなぁ』
『え、どんな癖ですか??』
『働かないで暇をしてるんだったら、安くても仕事をしてる方が良いと言う発想だよ!でもその考え事体が、プレーヤーの価値を下げてると言う事をよ~く考えなさい』
『でも安くても、仕事があった方が事務所にとってはプラスですし…きっとプレーヤーも喜ぶかと……』
『プレーヤーの成長段階にはそれが必要な時期もある。だが、そのひもじい発想をしてる限り、トップクラスのプレーヤーのマネージメントはまだまだ難しいな。いいか目先の幾ばくかのギャラで右往左往するのではなく、そのプレーヤーの3年、5年先を見てマネージメントをしなさい。そしてプレーヤーの価値を上げると言う事はどういう事かよ~く考えなさい』
ふたたび一人になって、大窓王の言葉を何度も繰り返した。仕事がなくなる恐怖にしばられていたのかもしれない。危うくプレーヤの価値を落としてしまう所だったのだ。
<10月初旬>
番組改編も一段落した、うららかな午後。
あの断った仕事と同じスケジュールの時間に、条件もはるかに良い別の番組の話が決まった。
仕事とは不思議な物である。
「勢いのある人の元には、仕事は真空を嫌い集まってくるのだ。」
だからトップマネージメントとは、いかに条件の悪い仕事を切って、良い条件の仕事をさせるのかと言うことなのだろう。
大窓王に、さっそく今の思いをぶつけてみた。
「このあいだ言っていたトップマネージメントですけど。プレーヤーの価値を上げるってことは、悪い条件の仕事を断ると言う事だったんですね」
大窓王はコーヒーを片手に持ちながら、ちらりとこちらを見た。
『やっと、それに気付いたか。でもそれだけではトップマネージメントのまだまだ入り口だな』
そういうと飲みかけのコーヒを、大窓王はゆっくりと口に注いだ。
私は驚愕していた。やっとたどり着いた答えだったのに、その答えがまだまだ入り口とは!!
トップマネージメント。その全貌とは、どうなってしまうのか!
知人に紹介された女性と会うのは断ろうと思った。あまり趣味ではなかった。向こうも乗り気ではなさそうだし・・・
いま、私には彼女より新番組という「獲物」が必要なのだ。
なぜなら私は『改編の狼』なのだから。
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