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ホーム > インタビュー「小さな奇跡」 > 第1話

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※好評連載中!

第1話 昼にも星は輝いている(ナレーター かすみんさん)

2010年2月11日 ナレーターメルマガ133号より転載

自分の分身であるボイスサンプル。それを心を許せる親友、たった一人だけに聴いてもらった。 


”目指してる”からプロに「進化できた」その瞬間って、何があったんだろう?

この物語はトッププロたちの華やかなデビューストーリーではありません。
あなたの身近にいる、ナレーターになりたい人達がプロになっていく過程のささやかなお話。 初めての仕事”小さな奇跡”を綴った実録インタビューです。


第1回は、フリーの新人ナレーターの「かすみん」さん。36歳。
会社員をやりながら、ナレーターの勉強をはじめ、長く曲がりくねった道をたどりながら、昨年よりCSなどでレギュラーの仕事をもつようになった。ちなみに食うにはまだ。



『日本中にデザインを紹介できたらどんなに素敵だろう』と思った。

はじまりは服飾への憧れだった。パリコレのためにフランス留学も経験した。帰国後ファッション番組を見て『私の声で日本中にデザインを紹介したり解説したりできたら、どんなに素敵だろう』と思った。進路は名門のテレビ制作会社に即決。女性ADとして、念願のファッション番組に関わることに。いきなり夢がかなったのだが…

「以前のメルマガ連載で、同じくテレビ制作会社出身のAXTO狩野さんのインタビューがあったじゃないですか。あれ読んで、私も共感して涙が出ました(笑)ADの、特に女性ADの扱いなんて、ほんっとうに惨めなものですよ(泣笑)」
そして『私は制作者じゃなくて、ファッションを表現する”ナレーター”になりたかったんだ』という気持ちに気づいた。

大手の声優養成所を知り、仕事と平行しながら通学。その頃はナレーターと声優の区別もついてなかったし、ただ与えられた課題をこなすだけで楽しかったという。だが半年間のレッスンを経て、所属審査に落選。
「まったくの素人ですから、基礎を学ぶことが必要なんだなと」考えて、次は大ベテラン声優が開く声優養成所に通うことにした。



何をすれば仕事に結びつくのかが4年間わからなかった。

入った養成所は「できるまで教え続ける」という面倒見のよいところだった。大御所の優しさを慕って長期間通う生徒がたくさんいた。基礎を学び続けたかすみんも、気がつけば4年がたっていた。
「もちろん仕事はしてみたかったですよ。心の底から。でも何をすれば仕事に結びつくのかが4年間わからなかった。”事務所に所属できればオーディションがあって…なんとなくプロになっていくんだろうなぁ”というぼんやりとしたイメージしかなかったんです。だから毎日『きっと明日は何かが変わるだろう』と思うだけで、特に何かをしていた訳ではないんです…」

アニメのディレクターを招いてのレッスンで、気に入ってもらえた同期生がガヤ(群衆シーンのその他大勢)など小さな仕事を1回か2回振ってもらっていた。『仕事ってこんな風に”知ってる人を使う”ことも多いんだな』とぼんやり感じていた。

だが、4年経ってもかすみんには、ガヤのひとつも声はかからなかった。小さなガヤでも喜びあう同級生を横目に、焦りと悔しさ。嫉妬、絶望。自分には才能も運もないんじゃないか…悩み続けたあと、制作会社と養成所の2つを同時に辞めた。何もかも失っていく空虚を噛みしめて。

私程度がボイスサンプルをつくっても何もならないだろうし、って。

しかし苦しくても、このまま辞める決心も出来なかった。それは『心の弱さ』だったのかも知れない。2007年。かすみんは再びプロのナレーターを目指して、スクールバーズのベーシックコースに通い始めた。
同期生の中には、すでにプロで活動するナレーターや声優、アナウンサーたちもいた。初心者だった同期の中からも、ボイサンプルを認められ、レギュラーをゲットする者も出てきていた。クラスの中ですら飛び抜けられていない自分。漠然とした不安ばかりが大きくなっていく。ここでも私は選ばれない。

「ナレーターには『ボイスサンプル』が大切であろうことは分かってたんです。でも実際に行動にうつすことはしなかったし、できなかったんです。私程度がボイスサンプルをつくっても何もならないだろうし、って。そして営業という言葉だけが頭の中に響いてたんです。”見ず知らずの会社を毎日訪問して、ボイスサンプル渡してまわる”イメージしかなかった。そんなことはとても私にできそうにない…仕事の経験がないので営業できない。仕事をするには営業しなきゃ。でも仕事したことないし…不安のループにはまってました。嫉妬や焦りで、この頃の私は顔が歪んでいたかも知れない」

このスクールでも認められない。プライドが打ち砕かれそのかけらも残っていなかった。いや本当は理由をつけ何もしないことで、プライドのかけらを守っていたのかも知れない。

そんなある日。講師の言葉が引っかかった。
『誰がどんな風に売れていくかは誰にもわからない。だから誰か他の人まかせではなく、自分で準備して行動することなんです。悩み自分と向き合うことは、時には必要なことですが、同時にそれは最も大切なもの『時間』を浪費しているんです。今できることを行動にうつすことで勢いの渦がうまれ「次にやれること」が明確になっていく』

その言葉でプライドのかけらがすこしだけ溶けた。かすみんは、ボイスサンプル収録をすることを決めた。



心を許せる親友、たった一人だけに聴いてもらった。

サンプル収録は「ある意味で”残酷な鏡だった」とかすみんは言う。それまでは漠然としていた「何かが違う」と感じる自分の読みの「何が違うか」が明確になったからだ。私は、こんなに下手だったんだ…甘かった。
サンプル収録はやってよかったと思う。課題が見えることで今何をすればいいわかったから。でも、営業はやっぱりできないとおもった。こんなレベルでは同期生たちにも聞かせられない…自分のイメージしている読みが表現できていなかった…

長く曲がりくねった道を、苦しみながら遠回りした6年間。その結果である「ボイスサンプル」を封印したかった。でもそれでは悔しかったし情けなかった。出来上がった自分の分身であるボイスサンプル。それを心を許せる親友、たった一人だけに聴いてもらった。



”小さな奇跡”は、思いもよらないところで起きていた。

サンプル作成から一ヶ月以上たったある日。電話が鳴った。
『ボイスサンプルを会社に提出してみたんだけどね。そしたらなんと!プロデューサーがかすみんでいくと言ってくれたんだ!明日ナレーション収録だから、スタジオに来れるかな?』

”小さな奇跡”は、思いもよらない所で起きていた。
一人だけボイスサンプルをきかせた、あの親友からのメッセージ。制作会社時代からの親友だった彼女は、まだテレビ関係の仕事をしていたのだった。

「”マジーーー?!なんで私?”の一言。びっくりしてそれしか言葉が出なかった(笑)”仕事がとれる”なんて想像すらしてなかったし、結果もさんざんだったサンプルだったから」

現場では緊張のあまり何があったのかはほとんど覚えていない。ただただ精一杯自分にできることをやって、帰りに「良かったですよ」と言われた時、いろんな気持ちが溢れて涙が止められなかった。

はじめはCSの小さな仕事。だが現場での頑張りをスタッフたちが支えてくれた。「次はあれもやってみる?」「これも頼んでいい?」少しづつだが、頼まれることが増えてきた。「小さな奇跡を”次”につなげていくことがプロなんだ」としだいに手応えを感じた。

昼にも星は輝いている

「私が勝手に思い描いていた”営業”というものは、やったことがないからこそ想像が一人歩きしてたんですよ…」と彼女は言う。
「私に見えていなかっただけで実はチャンスってどこにでもあるんだ、と思いました。『自分から意思表示をしておく大事さ』がわかりました。スクールのアドバンスコースでずっと教わってたことなんですけど、後になってみないとわからないもんですね。”まだ私には早い”とか”何をすればいいかわからない”で何もしないでいると、昼にもそこにあるはずの星の輝きが見えないままなんですよ」
「声優事務所にいたころの同期生の中には、仕事をもらっている人たちがいました。でもその人たちは、”与えられたもの”をこなすことに必死で、ずっと不安におびえながらバイトと稽古をする毎日だったと思う。私は、偶然のラッキーだったけど、そのことで”何をすべきか”を自分で発見することができた。この先も続けられるのかという点では不安はありますが、漠然としたものではなくなったんです。今は早く”次”にいきたい。「私はこれです」といえるサンプルをもって、チャンスをつかまえていきたい」

”小さな奇跡”は彼女に仕事のチャンスだけでなく「心の強さ」を与えてくれたのかも知れない。
かすみんの瞳には、ファッション番組でナレーターをしている「未来の自分」が映っている。


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