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第5話 ナレーターインタビュー【四本木典子】(後編)
「落ち込み続けるのって嫌だから」
2010年5月27日 ナレーターメルマガ141号より転載

勧められるままに「売れっ子のコピー」をはじめた。「これでいいんだろうか」と我にかえる一瞬もあった。でも何度も繰り返し練習すると、ふと特徴をつかめる一瞬が来る。
この春、日テレ朝の看板番組のナレーターに抜擢されたナレーター四本木典子(しほんぎのりこ)。彼女はどんな道を歩んできたのだろうか。今回はデビュー前の道のりに迫ります。
OL街道から一転ニートに没落!
出身は北陸、福井県。いまも故郷福井のことを愛して止まない。そしてもうひとつ彼女が好きな物は鉄道。福井を通る特急雷鳥が大好きな、立派なオタク少女であった。鉄道グッズに囲まれている時が一番幸せだ。
そんな四本木は大学を出たあと順調に地元の銀行員になる。
「なんっでか、何度チェックしてもミスしちゃうんですよ!それがつらくてつらくて。好きでもない仕事で人間性を否定されるのはもう堪えられない、と(笑)で、同じミスをしてつらいのなら、せめて好きな仕事をしていたい!って」
親に黙って勝手に銀行を辞めたのであった。
OL街道から一転ニートに没落!親のスネをかじりながら、ぶらぶら過ごす日々。そんな彼女なのに、なぜだか芸能の女神が微笑んだ。イベントリポーターや地域CM、広報ナレーションなど、地方での小さな声の仕事に巡り会うことができたのだ。
「いやぁいつでも時間が空いてるってのが強みだったんでしょうか(笑)それに銀行員時代、ほめられたのが電話の声だったんですよ!訛りが少ないって。まあこれしかほめられたことはなかったんですが(笑)」
順調に思える地方での活動。しかし彼女の中ではむくむくと、東京でプロのナレーターになる夢がふくらんでいた。上京して本格的にナレーションの勉強をしたい。進み始めた電車はそう簡単に止めることは出来なかった。
本当にそんなに細かく気になってるの?!”という感じ。
スクール入学、最初のレッスンの講師は山上。初日から四本木は完膚なきまでに打ちのめされたのだった。
『声が気持悪い。どっから声出してんの。表現はさも”◯◯っぽい”感じを作ってて、聴いてるとヒャィア~(全身をかきむしりつつ)ってなるんだけど?とにかく、全部まちがってる。はい次のひと』
と、すさまじい勢いでダメ出しをうけた。
「声や喋り方を否定されたことで、いままでやってきたこと全てを、否定されちゃった感じでした。本当にショック。自分が好きと思っている表現が、まさか不快とまで言われるなんて、思ってもいなかったですから(涙)」
他講師陣のレッスンでは、さらっとしたダメ出しを受けるだけ。
「”読めてればいいんじゃないの”くらいに思っていたので、他講師陣のかたのダメ出しも”!本当にそんなに細かく気になってるの?!”という感じ。いったい何が悪いのかも、分からなくなってました。それでもなんとか練習してたんですが、レッスン前夜はずーん、だったんです」
ずーん。胃も痛んだ。地元で仕事をしていた時は、気ままにできる楽しさがあった。好きな仕事をしていたはずなのに。これでは銀行員だった時の日曜の夜と変わらない。
クラスでは「可もなく不可もなく」な存在。その頃、立ち上がったキャスティングプロジェクト猪鹿蝶に自前のボイスサンプルを送ったが、声をかけられることはなかった。力をのばしている同期生たちは、猪鹿蝶からチャンスをつかんでいく。四本木が乗った運命の電車は停車したままだった。その隣を快速電車が次々と追い越していった。
”趣味視点”が”プロ視点”に変わっていった
「猪鹿蝶に落ちて、いまのままでは通用しないことを実感したんです。センスも含めて。心から変わろうと思った時でした」
スクールバーズ校長義村と話す機会があった。自分の声のどこが変かということを問うてみた『今しゃべってる声は自然だよ。原稿を読む時に何かの別のスイッチが入ってるんだよ。いちどいろんな番組のコピーをしてみたら、分かるんじゃないかな』
勧められるままに「売れっ子のコピー」をはじめた。「これでいいんだろうか」と我にかえる一瞬もあった。でも何度も繰り返し練習すると、ふと特徴をつかめる一瞬が来る。少しずつ手応えを掴み始めた。
「”私が良い声”と思ってた声が、”作ってる声”なんだなーと、ようやく気がついたというか。それからテレビの見方が変わりました。”実際に売れている人”を注意深く聴いて『この喋り方は気持わるくないんだろうか』『私がやったらどうなるか』。今にして思えば”趣味視点”が”プロ視点”に変わっていったのかもしれません」
そして【天敵】が待つスタジオバーズに決戦に向かった
そして、ずーんとくる胃をおさえながら【天敵・山上】が待つスタジオバーズに決戦に向かった。仕事を目指してというより、ボイスサンプルをつくることで、練習の成果を確認したかったからだ。自分が変化できているのかを確かめるために。
「内心どきどきしてたんです。あぁまた怒られるかな…と恐かった。でも仮に全否定されても悪い方向にはいかないんだって無理矢理、自分に言い聞かせたんです」同じナレーターを目指す彼氏に、練習の成果を聞いてもらったが、一言「ふーん」で流された。いたたまれなくて自分からすぐ話題をかえた。
そして当日。予想に反して、さらっとボイスサンプル収録は終わった。
四本木の運命をのせた電車はフルスロットルで走りだす。
サンプル収録から1ヶ月後。唐突に電話が鳴った。キャスティングプロジェクト猪鹿蝶の狩野貴子からだった。
『朝の生ナレーションなんだけど、やってみる気ある?』
「ほんっとにビックリしました。猪鹿蝶オーディションの時は箸にも棒にもかからなかった訳だし、レッスンでもいつも「可もなく不可もなく」だった私がなんで?!と」
四本木の運命をのせた電車はフルスロットルで走りだす。
大手からの精鋭達が集まる大規模オーディション。課題は北陸のローカル列車の原稿だった。心が弾んだ。そしてそれはスタッフにも伝わったのかも知れない。女神は再び四本木に微笑むことになった。精鋭達の中から選び抜かれ、看板番組をつかんだのだ。
普通の生徒だった四本木が、”さなぎ”から出て来たって。
キャスティングプロジェクト「猪鹿蝶」リーダーの狩野貴子は語る。
『まずは山ちゃんの推薦からですね。スタジオ収録のその日のうちに、連絡くれたんです。普通の生徒だった四本木が、”さなぎ”から出て来たって。それって私たちもわくわくすることですからね』
猪鹿蝶に落ちた後の練習でくじけることはなかったのか、四本木に聞いてみた。
「それは落ち込みましたよ。でもシンプルに向上しようと思ったんですね。落ち込み続けるのって嫌だから(笑)だから向上しようって。いまでは山上さんの指摘は、ありがたかったと思ってます」
インタビューの間、彼女はほんとによく笑う。柔らかくピュアな人柄が彼女の魅力なんだと感じさせる。しかもその中にタフな精神が垣間見える。
四本木典子のナレーションは、今日も日本の朝を駆け巡っている。
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