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第6話 ナレーターインタビュー【大山裕子】
「ナレーションの遺伝子」

2010年5月13日 ナレーターメルマガ140号より転載

ナレーターインタビュー大山裕子

いままで表現でしか認められたことはなかった。それも授業では否定されていた。認められたい、でも自信がない。怖かった。誰からも愛される自信がなかった。

 『いまだに自分の言葉で話すことは得意じゃないんです』と笑いながら膝を抱えるようにしてぽつりぽつりとインタビューに答えていく。ひとり静かに積み上げていくタイプだとわかる。

大山裕子。20代半ば。今年の4月からNHKではじまったヒューマンドキュメントのナレーターに大抜擢された。それはトッププレーヤーたち誰もが望んで止まない番組を、ナレーションの新人がつかみ取った瞬間だった。
『私、普段は引っ込み思案なんですが、なぜか本番だけは”負ける気がしねぇ”って(笑)根拠のない自信が出るんです』それは大山の大きな強みだ。

はじまりは中学の演劇部。すぐに演じる魅力にとりつかれた。演者の息づかいまで聞こえる舞台の現場が大好きだった。高校、大学になっても生活の中心に演劇があった。
「役者になりたい」
大学卒業後は一般企業に就職。だが1年もたたないうちに我慢ができなくなり、その足で、世界レベルで有名な、大物演出家のもとにむかった。



ダメ出しはもうひと言、増えた。『お前の台詞は、”嘘”だ』

その演出家は、演劇のビジネスと芸術性を両立できている数少ない才人だった。演出スタイルも有名。怒ると灰皿を投げる。普段の稽古では”辞めろ””死ね”の二言だけ。厳しさもトップクラスの人だった。

ある作品の稽古中。演出家が何気ないミスをしたヒロイン役を降板させた。突然の稽古場オーディション。そして選ばれたのが、大山だった。公演まで一週間。大山に出されたダメ出しはもうひと言、増えた。

『お前の台詞は、”嘘”だ』

気持ちをこめても伝わらない。全身をつかっても、声に集約されていかない。演劇を続けてきた大山にとって、はじめての挫折だった。

その後、大山は師のもとを離れる。舞台に立てるチャンスが来なかったのだ。でも何をするとも決めず飛び出した。退団を親にも言い出せず、稽古にいくと言って家を出、公園で時間をつぶして帰る日が続く。



何をすればいいのか、まったくわからなくなった。

なりたいとあがくほど、役者は遠ざかっていった。
「喋ることの不安が芽生えたんです。自分にはハートがないんだって」
ナレーターになることに、本気だったわけではない。役者の勉強のつもりで「スクールバーズ」に通うことになる。そしてナレーションの実技コースのレッスン。

ある講師から「気持ちを入れすぎで主観が強すぎる」役者としての表現が否定されてしまう。客観性を求めて読めば「作るな」とダメ出しをされる。「嘘だ」と言われた過去が脳裏をかけめぐった。ほどほどに感情をこめれば自分でも中途半端な表現が気持ち悪い。何をすればいいのか、まったくわからなくなった。
『ほんとに手探り状態。あっちを触っても壁、こっちを触っても壁。まっくらな長いトンネルに光はどこにもみえなくて。半年間、毎日落込んでいました』


公演の観劇のため古巣に戻ると、同期や先輩から「早く舞台に戻っておいで」と言われた。突破口の見えないナレーションの道を前に、大山は立ち尽くす。



”表現は生き方そのものなんだ”と掴めた瞬間だったのかもしれない

会社も辞め、劇団も辞め、そして始めたばかりのナレーションも辞めようとしていた。
『この頃、すっごい泣いていたんです。役者かナレーターかそれとも表現の世界を辞めるかずっと迷っていて。いやになったらすぐ逃げちゃうんです。甘やかされて育ったからなのかな…』
その様子を見てマネージャー義村が声をかけた。「大山はいいものを持ってるよ。ナレーションでその場をつかむ感性がある。もう少しの間だけでもナレーションに集中してみたら?」

いままで表現でしか認められたことはなかった。それも授業では否定されていた。認められたい、でも自信がない。怖かった。誰からも愛される自信がなかった。
義村の言葉に大山は涙をぼろぽろと流した。否定され続けた、いままでの思いが溢れ出た。


その後、マネージャー狩野が「CMナレーションセミナー」をすすめてくれた。15秒のなかで、技術よりも”感性”がむき出しに要求される世界。番組ナレーションとはまた違ったノウハウが求められる。大山の感性がCMの世界で何かを掴めるのではないかと思ったのだった。


その日の講師は、舞台役者からCMやドキュメントの世界で活躍する鈴木省吾だった。
「自分の気持ちができあがったら、そこで、そのまま喋ればいいじゃん。どんな風に喋ればどう聞こえるとかは、あとからついてくるんじゃない?どうかな?」


当たり前のように言う鈴木の問いかけ。大山の迷いのトンネルに光が差した。
『いまのヘタな技術でも、自分に嘘がなければいいんだ!表現するって”生き方そのもの”なんだと掴めた瞬間だったのかもしれない』



真っ白なところに飛び込む感じ。

2010年春。マネージャー狩野はNHKの新番組に、ど新人である大山をキャスティングした。「売りたいと思えるサンプルに出会った」と思っていたからだ。大山の生き方を乗せたボイスサンプル。その声からは、なにかが伝わって来ていた。
『一週間後、電話を受けた時は、もうびっくりして。オーディションでは強気でしたが、家でワナワナしっぱなしでしたから』

それから、毎週NHKに収録に通う日々が始まった。
『収録前は、あれこれ考えを巡らせようとしてしまうんです。プレッシャーでワナワナしながらね。でも考えてもなにも出てこないし、考えたところで器用なほうでもありませんから(笑)真っ白なところに飛び込む感じ』と笑った。

ドキュメンタリーを読む上で気にしていることはありますか?
『ドキュメンタリーは楽しいけど難しい。なるべく主人公に寄り添うように心がけてます。世界観を壊さないように、そっと優しく包んでいく。いまはもっとお母さんみたいな…優しく包むようなナレーションがしたいんです』


大山は、幾度か番組の収録スタジオを見学した。その時、スタジオに流れる自分のナレーション。それを聴く出演者たちの目から涙が流れた。涙の後、皆の顔が柔らかく丸くなった。彼女のナイーブな感性から紡ぎだされるナレーションが、人の心を打った瞬間だった。


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